Vol.94
たばこと文化 3

先月のコラムはいかがでしたか?
バーのネタになりましたか?
今回は94回目。連載100回目まで残り6回です。
今回江戸の時代に栄えた、たばこや煙管。
嶋田さんにご意見・感想をください!(2015年12月)


ヒロ嶋田さんご紹介

長くシガーダイレクトのシガーアドバイザーをつとめてくださったヒロ嶋田さん。シガーに関する専門コラムである「スモーキートーク」は、シガーダイレクトの各種ページの中でも常時ベスト3に入るほど、固定のファンがいらっしゃいます。
「なんでも鑑定団」の喫煙具鑑定士さんが「あいつの舌は特別」とおっしゃっていたのをお聞きしたことがあります。

「葉巻は嗜好品である。
自分の生活スタイルに色づけをする小物にすぎない。
大切なことは人の意見に振り回されることなく自分流を演出しよう。」
というスタンスは今も変わることなく、今月も原稿が届きました。


華のお江戸は知恵の宝庫

たばこという商品の流通が活発になると、いろいろな身分の人々が喫煙に親しむようになる。商売になれば、需要に合わせて、いろいろな知恵を具現化して利を得るのが商人たちだ。もちろん、今では廃れた商売も少なくはない。華のお江戸は知恵の宝庫だった。


「たばこ売り」

現代でもたばこ屋は、街のいたるところで見られる。江戸時代には、たばこを売る小売の店は現在のようには、多くなかった。そこで行商は、背負子にたばこの葉を入れた木箱を括り付け、街を流してたばこを売り歩いていた。

たばこの生産量は、今とは比べものにならないくらい少なかった。そのため、たばこそのもの高価だったから、行商でも充分生活していくことができた。

もちろん、お店を構えているたばこ屋もある。たばこ屋は、乾燥したたばこの葉を問屋から買い付け、刻み小売をする。刻みを作るためには、一枚一枚に水をかけながら柔らかくする必要がある。刻みをしてこそ、商品の価値は上がるのだ。しかし、葉の全てに口で含んだ水を噴きかけながら、加湿して刻むのが大変な重労働であった。


「賃粉切り・ちんこぎり」


▲上が刻みたばこ、下が手巻きたばこ用のシャグ。全く太さが違うのがお分かりいただけるだろうか。
たばこ屋にとって、たばこの葉を刻む作業は楽なものではない。もちろん、購入者にとっても、至極の喫煙をすることが目的あるから、自分のために必要な刻みの作業を自らおこなうより、誰か手馴れの助けを借りるほうが、良いものが出来る。

そこから生まれた商売が、「賃粉切り」だ。たばこの葉を販売している訳ではない。たばこの葉を購入した者が、賃粉切り屋に持っていくと、煙管の火皿に見合う繊細な細さに葉を刻んでくれる。たばこは、葉身の部分を束ね、上から平らな板で圧力をかけ、押し切るように刻んでいく。

たばこ屋も自分で苦労して刻むより、手間賃仕事ができる職人に委託するほうが、合理的だった。このような商売が成り立つのも、広く喫煙が親しまれていたため必然から生まれたのだろう。賃粉切りは、なにも職人だけが行っていたわけではない。下級武士や浪人の内職としても、人気があった。
 筆者も以前、煙管用の刻みを機械で押し切っているところを、博物館で見たことがある。えらくスローモーな動きに、不思議そうにみていたら学芸員の方にこう教えてもらった。
「細刻みのたばこを作る際、機械の速度を上げれば沢山製造できる。ところが、その時に刃の部分に発生する摩擦熱で、刻みが黒く変色してしまう。」
黒く変色するというからには、たばこの風味も落ちることになる。ゆっくり、旨みを逃さないように刻むことが、賃粉切りの技だった。
「手刻みのたばこは、うまい」という。現代のように大量生産の時代でなければ、こういう商売も生き残ったことだろう。


「一服一銭」

もともと、室町時代に始まった商売で茶道具一式を路上で広げ、茶をたてたものを通行人へ売るのを、一服一銭と呼んだ。

時代劇に出てくる茶店や今の喫茶店のさきがけのようだ。しかし時代が下り、路上にむしろなどを引いて煙管を並べ、客にたばこを詰めて一服させる商売が出現した。自分で煙管やたばこを購入することが出来ない人々もこれなら、喫煙することが出来た。一銭というのは、安価の象徴で実際の金額だったわけではない。

大阪の梅田にも同じような喫煙場所がある。セルフサービスの喫煙所で、自動販売機が広めのスペースに並んでいる。たばこの販売機もあれば、飲料の販売機もある。簡易ではあるが、椅子とカウンターテーブルも設置してある。そこで、一服しながら飲み物を飲んでほっとする。東京では見たことがないスペースだが、大阪人のアイディアから生まれたものなのだろうか。


「羅宇屋」


▲ここが羅宇
煙管を使えば、脂で汚れる。日ごろの手入れは自分でできるが、煙管の中でだんだんこびりついてきた汚れを落とすのは、重労働だ。筆者もずぼらな性格だから、面倒な作業は後回しにしたい気持ちが良くわかる。また、一服すれば火皿と吸い口をつなぐ羅宇も痛んでくる。そのため、定期的に羅宇挿げ替えをする商売、羅宇屋が生まれた。
煙管が好事家の趣味になった現代では、羅宇屋を見たことがあるスモーカーもほとんどないだろう。しかし、21世紀の今、日本に一人だけ商売の火を守っている職人がいる。細く小さな炎は、これから何年続くのだろう。

商売が生まれ発展していく中で、芸能でもあった歌舞伎にも煙管が登場する。歌舞伎では、武士、商人、農民などをわかりやすくするために、所作も煙管も区別して表現された。
こうして、たばこと煙管は人々の日常と密着し、愛され文化になった。
この煙管文化が転機を迎えるのは、シガレットが世界中を席巻した戦後まで続いた。


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